4 認知症 後編 獣医師 佐藤
前回は、認知症とはどういうものか?また認知症の予防に関してお話ししました。現在は、高齢犬介護に関する書籍が沢山販売されていて、認知症や介護に関する情報があふれています。しかし、それらは高齢犬に着目したものが多く、高齢犬を支える飼い主さんに着目したものは少ないのが現状です。
そこで今回は、
「認知症を発症した老犬と、どのように向き合っていけばいいか」に関してお話ししたいと思います。
高齢犬との介護では、飼い主さんが自分の中で問題を解決しようとし、疲れてしまいがちです。ご近所から鳴き声で苦情がでると、さらにその悩みは大きなものになります。また、高齢犬介護に対する理解が得られず、心無い人からの中傷の言葉を受けてしまうこともあるようです。
でも、家族の一員のペットが高齢犬になって、私たちの支えを必要としているのですから、何とかしてあげたいと思う気持ちは当然のことです。誹謗中傷を受けても、周囲に迷惑をかけていないのであれば、自分が正しいと思ってやってあげていることなのですから気にする必要はありません。
では、飼い主さんが認知症の高齢犬をお世話するときに頭に入れておいて欲しいことを、ご紹介したいと思います。
それは、周囲の人に相談するということです。前回もお話ししたように、高齢犬のお世話で一番大切なことは、飼い主さんが明るい気持ちでお世話を続けることだからです。
では、相談相手は誰にすればいいのでしょうか?
相談相手としては、「家族」「ご近所のお友達」「動物病院」「ペットシッター」
などが挙げられます。
では、1つずつ詳しくお話していきましょう。
・家族
→どうしても高齢犬のお世話は、いつもお家にいる奥様に任せっきりになってしまいがちです。でも、奥様は家事もあって色々と忙しいものです。家事に加えて老犬のお世話も1人でやると負担は相当なものです。家族の一員である愛犬のお世話は、家族みんなでする必要があります。ご主人や子供たちにも、お仕事や学校がお休みの日、帰宅時間が早かった日には積極的にお世話をしてもらうよう、家族で話し合ってくださいね。
・ご近所の方々
→高齢犬の鳴き声は、甲高く単調で、朝・夜構わずに続きます。これによって
ご近所とのトラブルになるケースが増えてきているようです。特にマンショ
ンの方では、引っ越しをせざるを得なくなってしまったケースもあるようで
す。
一般的に騒音は感覚によって感じ方が左右されると言われています。
すなわち、同じボリュームの騒音でも、仲が良いお家の騒音は、それほど不快に感じないのに対して、仲の悪いお家や、あまり知らないお家の騒音はより不快に感じることが多いと言われています。
そこで、ご近所の方に、愛犬の認知症に関して積極的に話し、相談することをお勧めします。飼い主さんの苦労や、迷惑をかけないように気を使っていることを少しでも知っているだけで、周囲の方の感じ方は変わってくることでしょう。
・動物病院
→動物病院への高齢犬のお世話に関する問い合わせは年々増えています。中には、安楽死の依頼をされる方もいらっしゃいます。認知症以外に苦痛を伴う病気を持っている場合など、高齢犬の状態によっては安楽死を選択せざるを得ないケースもありますが、これは本当に最終手段であり、安易に選択する方法ではありません。
また、動物病院で認知症など介護を要する高齢犬に関して短期間の預かりを実施している動物病院もあります。
・ペットシッター
→近年は高齢犬介護を専門に行っているペットシッター会社もあるようです。他の施設に預けずに自宅にてお世話を手伝ってもらえるので、少し息抜きしたい時にこのサービスを使ってみてはいかがでしょうか?
しかし!
色々なサービスがあるとはいえ、やはり愛犬自身は飼い主さんと一緒にいる方が落ち着くでしょう。環境や接する人の変化は、脳への刺激になるものの、変化が急激ではストレスや不安にもなりかねません。また、大事な愛犬を人に預けるなんて嫌だ!と思われる方も多いのではないでしょうか?
でも現実として介護に疲れ、周囲に相談する機会も持てず、愛犬を手放してしまう例もあるのです。これは本当に本当に悲しいことです。
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人は誰でも疲れ、全てを投げ出してしまいたいと思う事もあるでしょう。「介護」の期間が長くなれば、そのような時を度々経験するかも知れません。そんな時は、一度心を落ち着けて、これまでの愛犬と一緒に過ごした日々を思い出してみましょう。私たちが楽しい時はもちろん、悲しく辛い時も愛犬はいつも側にいて寄り添ってくれていたはずです。大切な愛犬が介護を要するようになり、苦しそうな姿を見ることは本当に辛いことだと思います。でも「介護」は愛犬と過ごす時間を増やしてくれるものでもあります。「動物を飼い、共に過ごすということ」は「その子の命が終わるまで、共に一緒に過ごすこと」です。息抜きがしたい時は、上に書いたようなサービスをうまく利用しながら、家族の一員として共に時間を過ごしてきた愛犬に今度は私たちが寄り添ってあげましょう。
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これは獣医師としてよりもむしろ、皆さんと同じ飼い主として自分が経験して感じ、同じ様に犬が大好きな飼い主さんにお伝えしたいと思ったことです。
今「介護」に直面している方も、これからに備えようとされている方にも、何か少しでも希望を持ってもらえたなら嬉しく思います。
では次回は、このシリーズの最終回として高齢犬介護の方法やその道具に関してお話ししたいと思います。