よくある相談【猫の下痢 前編】獣医師が代表的な5つの原因について徹底解説
この記事を監修した獣医師
anicli24 院長
三宅 亜希みやけ あき
犬・ネコの病気、予防医療、しつけ、ペットに関する気になることを専門の獣医師に電話相談できる電話動物病院「アニクリ24」の院長。日本大学生物資源科学部獣医学科卒業。
犬・ネコの病気、予防医療、しつけ、ペットに関する気になることを専門の獣医師に電話相談できる電話動物病院「アニクリ24」の院長。日本大学生物資源科学部獣医学科卒業。
よくある相談内容
実際に来院される理由としてよくある症状を紹介していきたいと思います。ご自宅の猫ちゃんに同症状がみられた時に、参考にしてみて下さい。
猫が下痢をして2日目
今年で10歳になるオス猫(去勢済み)を飼育しています。たまに便が軟らかいことはあるのですが、今回は2日続いているので少し心配です。食欲元気はあり、便の回数おしっこの回数などは変わりなく、吐き気もありません。
病院が苦手で受診をすると体調が悪くなることがあるのでなるべく受診は控えたいのですが、もう少し様子をみていても大丈夫でしょうか。
獣医師からの回答
食欲元気があり、おしっこもしっかり出ているようなので深刻ではなさそうですが、食事の変更や食事のあげすぎなど、なにか思い当たることがなく下痢が続いている場合は、シニアという年齢を考慮すると念のために病気がないかを確認しておくと安心です。もし、ここ1年以内で健康診断などを受けていないようでしたら、健康診断を兼ねて受診されてもいいかもしれません。
ただ、受診で体調が悪くなってしまうということですので、他に症状が出ず、便の回数も正常ということであれば、今日の食事を少し減らしてお腹を休ませてみて、明日の便の状態が落ち着くかを確認してみてもいいかもしれません。もしくは、猫は連れて行かず便だけを病院に持っていき便検査だけでもしてもらえないかかかりつけの病院に確認してみるのもいいと思います。
明日になっても同じように軟便が続いた場合は受診を検討してください。一過性の下痢だったとしても下痢止めや整腸剤などで早く抑えてあげたほうが本人も楽だと思います。
猫ちゃんが下痢になる原因
猫が下痢を起こす原因は多岐にわたりますが、一過性で軽度の下痢の場合、食事の変更や食べすぎ、おやつが合わなかったなど、深刻な病気ではないケースがほとんどです。
一方で、病気による下痢も起こりえますので、猫の下痢の原因として押さえておきたい5つの原因を紹介したいと思います。ご自宅の猫に同症状がみられた時に、参考にしてみて下さい。
1. 食事が原因となる場合
2. 病原体が原因となる腸の病気
3. 病原体以外が原因となる腸の病気
4. 腸以外の病気や事故が原因となる場合
5. ストレスなど一過性の場合
食事が原因となる場合
食べ慣れていないものを食べた/普段のフードを食べすぎた
猫はグルメ、と言われることが多いように、フードに飽きてしまったり、ウェットばかり欲しがったりなど、食事に苦労している方は多いでしょう。好んで食べてくれるフードをみつけようと、フードを変更したときに下痢をした場合は、食べなれないものを食べたことにより消化が追いつかなかったのかもしれません。
また、普段から食べているフードやおやつも、食べすぎることで下痢を起こすことがあります。
上記の原因が疑われるときは、フードやおやつの量や種類をみなおし、必要に応じておなかを休めるために食事を1回分抜くなどの対策をおこないます。ちなみに生後数か月の子猫の場合は、食事を抜くと低血糖を起こす恐れがあるため容易におこなわないようにしましょう。
食物アレルギー
ある特定の食べ物がアレルゲンとなっていることがあります。猫の食物アレルギーの主症状は痒みや脱毛など皮膚におこりますが、下痢の症状が出ることもあります。
アレルギーが疑われる場合は、アレルギー除去食を食べ症状がおさまるかどうかを確認します。症状がおさまったあとに普通食に戻し、再度同じ症状が出た場合、食物アレルギーであると診断されます。血液検査でアレルゲンを調べることもできます。
食物アレルギーと診断されたあとは、アレルギー除去食をずっと食べてもらうことになります。
病原体が原因となる腸の病気
細菌
クロストリジウム、カンピロバクター、サルモネラなどの細菌が原因となって嘔吐や下痢を引き起こします。サルモネラ菌は生肉を食べることなどで感染することが知られています。細菌性の腸炎は一般的に抗生剤や整腸剤で治療します。
ウイルス
猫パルボウイルスや猫コロナウイルスなどが原因となって下痢を引き起こすことがあります。猫パルボウイルスは感染力が強いですがワクチンで予防ができます。
また、猫コロナウイルスが変異したものが猫伝染性腹膜炎(FIP)の原因になりますが、変異前の猫コロナウイルスは、無症状~軽度の下痢を起こすのみとなります。
ウイルス性腸炎は一般的に輸液療法や細菌の二次感染を防ぐための抗生物質などで治療します。
寄生虫
猫回虫、犬小回虫、猫鉤虫、猫条虫、瓜実条虫、マンソン裂頭条虫、コクシジウム、ジアルジア、トリコモナスなどの寄生虫が原因となって下痢を引き起こすことがあります。
寄生虫感染は、感染した猫の便を口にする、感染した母親から母乳でうつる、感染したノミや小動物(ネズミ、カエルなど)を食べる、など、寄生虫の種類によって様々です。
寄生虫性腸炎は一般的に寄生虫駆除剤によって治療します。
病原体以外が原因となる腸の病気
炎症性腸炎(IBD)
はっきりした原因を特定できない慢性の腸炎です。人の炎症性腸炎(IBD)と同じように、免疫が関与していると考えられます。他の考えうる似た病気が全て否定されて初めて診断できる病気のため、診断をするのは難しいことがあります。
炎症性腸炎は一般的に食事療法、抗生剤、抗炎症剤、免疫抑制剤などで治療します。
消化管腫瘍
腸にできる腫瘍としてはリンパ腫が一番多く、次に多いのは腺癌です。良性のものとしては、炎症性のポリープなどができる場合もあります。腫瘍により下痢を起こすことがあります。
リンパ腫は一般的に化学療法が選択されます。腺癌を含むそれ以外の腫瘍では第一選択は外科切除です。
薬
治療で使用している薬の特性により、下痢を起こすことがあります。便秘の時に使用する下剤で便の水分量が増えすぎて下痢をする、抗生剤・抗がん剤・抗炎症剤などにより腸内に炎症が起こり下痢をする、というものがここに含まれます。薬による下痢がみられたときはできるだけ休薬することが推奨されます。
腸以外の病気や事故が原因となる場合
胆管炎
胆管とは肝臓でつくられた胆汁を十二指腸へと運ぶ通路のことです。ここに炎症が起こることを胆管炎といい、症状として下痢を起こすことがあります。胆管炎は、抗生剤、抗炎症剤などで治療します。
膵外分泌不全
膵臓では消化酵素が作られ十二指腸へと分泌されますが、それが正常に行えないことを膵外分泌不全といい、症状として下痢を起こすことがあります。膵外分泌不全は慢性膵炎から併発することが一般的です。膵外分泌不全は消化酵素、抗生剤、ビタミン剤などで治療します。
異物誤飲
おもちゃやひもを飲み込んだり、腐ったものを食べたり、自然毒や薬品などの誤飲により下痢を起こすことがあります。毛づくろいで飲みこんだ毛が原因になることもあります。飲み込んだものにより治療法は異なります。消化しない異物の場合は内視鏡や外科手術により取り除きます。
ストレス(季節の変わり目、空調、環境の変化など)、異物(毛玉なども)を飲んだ、他臓器疾患の影響
ストレスなど一過性の場合
猫は環境の変化によりストレスを強く受ける傾向があります。具体的には、旅行に連れて行った、ペットホテルに預けた、引っ越しをした、家族が増えた、他の動物が増えた、周囲で大きな工事の音がしている、などが挙げられます。思い当たるものがあり、それが取り除ける(猫から遠ざけられる)場合、はなるべくストレスの原因を取り除いてあげましょう。
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