よくある相談【犬の嘔吐 前編】獣医師が代表的な5つの原因について徹底解説

この記事を監修した獣医師

anicli24 院長

三宅 亜希みやけ あき

犬・ネコの病気、予防医療、しつけ、ペットに関する気になることを専門の獣医師に電話相談できる電話動物病院「アニクリ24」の院長。日本大学生物資源科学部獣医学科卒業。

よくある相談内容

実際に来院される理由としてよくある症状を紹介していきたいと思います。ご自宅のワンちゃんに同症状がみられた時に、参考にしてみて下さい。

朝ごはん前に胃液を嘔吐

2歳のオス犬(去勢済)です。いつも元気で健康そのものなのですが、今朝起きたら白っぽい泡のような液体を吐いてしまいました。
昨日の夜ご飯は問題なく全部食べていて、今朝は私が寝坊したため今から朝ごはんをあげようと思っていたところでした。吐いたあとはケロっとしているのですが、嘔吐が初めてだったので心配です。この後どのようにすればいいでしょうか。

獣医師からの回答

飼い主さんが寝坊をされたとのことなので、いつもの朝ごはんの時間は過ぎていたのだと思います。もしかすると、通常よりも空腹の時間が長く続いたことで胃酸がたくさん分泌されて胃酸過多で吐いてしまったのかもしれません。

今は元気そうということなので、少量食事を与えてみてください。食欲があり、その後数時間様子を見ても再度吐くことがなければ、普段通り過ごしてもいいと思います。もし、食欲がなかったり、食べてもまた吐いてしまったりする場合は、胃腸炎などの可能性も考えて受診を検討されることをおすすめします。

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ワンちゃんが嘔吐を起こす原因

犬が嘔吐を起こす原因は多岐にわたりますが、一過性で軽度の嘔吐の場合、食事の変更や食べすぎ、おやつが合わなかった、お腹が空きすぎて胃酸過多になったなど、深刻な病気ではないケースがほとんどです。一方で、病気による嘔吐も起こりえますので、犬の嘔吐の原因として押さえておきたい5つの原因を紹介したいと思います。ご自宅の犬に同症状がみられた時に、参考にしてみて下さい。

1. 食事が原因となる場合
2. 病原体が原因となる胃腸の病気
3. 病原体以外が原因となる胃腸の病気
4. 胃腸以外の病気や事故が原因となる場合
5. ストレスなど一過性の場合

食事が原因となる場合

食べ慣れていないものを食べた/普段のフードを食べすぎた/空腹の時間が長かった

特別な日にいつもと違うご飯を食べたり、フードの食べが悪くなりフードを変更したりしたときに見られる嘔吐は、食べなれないものを食べたことによる消化不良が原因かもしれません。
また、普段から食べているフードやおやつも、食べすぎることや急いで食べたことで嘔吐を起こすことがあります。
さらに、朝ごはんの前に白~黄色の泡のような液体を吐いた、というようなケースでは、お腹がすいて胃酸がたくさん出たことによる嘔吐の可能性が考えられます。
上記の原因が疑われるときは、フードやおやつの量や種類、与える時間などをみなおします。食べすぎている場合では、必要に応じておなかを休めるために食事を1回分抜くなどの対策をおこないますが、生後数か月の子犬の場合は、食事を抜くと低血糖を起こす恐れがあるため容易におこなわないようにしましょう。

食物アレルギー

ある特定の食べ物がアレルゲンとなっていることがあります。犬の食物アレルギーの主症状は痒みや脱毛など皮膚におこりますが、まれに嘔吐の症状が出ることもあります。
アレルギーが疑われる場合は、アレルギー除去食を食べ症状がおさまるかどうかを確認します。症状がおさまったあとに普通食に戻し、再度同じ症状が出た場合、食物アレルギーであると診断されます。血液検査でアレルゲンを調べることもできます。
食物アレルギーと診断されたあとは、アレルギー除去食をずっと食べてもらうことになります。

病原体が原因となる腸の病気

細菌

クロストリジウム、カンピロバクター、サルモネラなどの細菌が原因となって嘔吐や下痢を引き起こします。サルモネラ菌は生肉を食べることなどで感染することが知られています。細菌性の腸炎は一般的に抗生剤や整腸剤で治療します。

ウイルス

犬パルボウイルスや犬コロナウイルスなどが原因となって嘔吐などの消化器症状を引き起こすことがあります。どちらも重症化しやすく感染力も高いですが、犬パルボウイルスはワクチンで予防ができます。ウイルス性腸炎は一般的に輸液療法や細菌の二次感染を防ぐための抗生物質などで治療します。早期に治療を行うことが重要です。

寄生虫

犬回虫、犬小回虫、犬鉤虫、犬条虫、瓜実条虫、マンソン裂頭条虫、コクシジウム、ジアルジア、トリコモナスなどの寄生虫が原因となって消化器症状を起こします。主症状は下痢ですが、嘔吐を起こすこともあります。寄生虫感染は、感染した犬の便を口にする、感染した母親から胎盤や母乳を介してうつる、感染したノミなどを飲み込む、など、寄生虫の種類によって様々です。寄生虫性腸炎は一般的に寄生虫駆除剤によって治療します。

病原体以外が原因となる胃腸の病気

胃炎(急性胃炎)

胃炎の中でも原因不明で急激に嘔吐を起こすものの、数日で良化するものを急性胃炎といいます。急性胃炎は一般的に絶食、食事療法、制吐剤、胃腸運動改善薬などで治療します。

便秘

ひどい便秘になると食欲不振や嘔吐が起こります。便秘の原因には、構造上便が通過しづらい、構造上の問題はないが腸が正常に運動しない、異物誤飲による通過障害、排便を我慢するうちに習慣化する、などがあります。治療には緩下剤、浣腸、摘便などがあります。

炎症性腸炎(IBD)

はっきりした原因を特定できない慢性の腸炎です。人の炎症性腸炎(IBD)と同じように、免疫が関与していると考えられます。他の考えうる似た病気が全て否定されて初めて診断できる病気のため、診断をするのは難しいことがあります。炎症性腸炎は一般的に食事療法、抗生剤、抗炎症剤、免疫抑制剤などで治療します。

消化管腫瘍

腸にできる腫瘍としては腺癌、リンパ腫などが多く、良性のものとしては、炎症性のポリープなどができる場合もあります。ミニチュア・ダックスフンドでは大腸に炎症性ポリープができやすいという報告もあります。これらの腫瘍により嘔吐を起こすことがあります。リンパ腫は一般的に化学療法が選択されます。腺癌を含むそれ以外の腫瘍では第一選択は外科切除です。

治療で使用している薬の特性により、嘔吐を起こすことがあります。薬を飲んだ刺激が嘔吐を引き起こしたり、薬により胃腸の運動が低下して嘔吐が起こったりします。薬による嘔吐がみられたときは休薬したり、必要に応じて吐き気止めや胃粘膜保護剤などが処方されたりします。

胃腸以外の病気や事故が原因となる場合

腎臓の病気

腎臓は体内に不必要な物質を尿として体外へ排泄させる機能を持っています。腎臓の機能が低下して、体内に不必要な物質が貯留すると、悪心が起こり、食欲不振や嘔吐がみられます。腎臓の病気には、急性腎臓病、慢性腎臓病があり、急性腎臓病は初期に適切な治療を行うことで回復が期待できますが、慢性腎臓病は残念ながら治せる病気ではないため、腎臓の負担を軽くする薬や、点滴、対症療法、療法食などで治療します。

肝臓の病気

肝臓は食べ物が代謝されたときに発生するアンモニアを無毒化する機能を持っています。肝臓の機能が低下して、血液中のアンモニアが増えると、悪心が起こり、食欲不振や嘔吐がみられます。肝臓の病気にはいろいろ種類がありますが、ドーベルマン、ベトリントン・テリア、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアなどでは慢性肝炎が起こりやすいと言われています。慢性肝炎は、食事療法、抗炎症剤、免疫抑制剤などで治療します。

異物誤飲

おもちゃやひもを飲み込んだり、腐ったものを食べたり、自然毒や薬品などの誤飲により嘔吐を起こすことがあります。飲み込んだものにより治療法は異なります。消化しない異物の場合は内視鏡や外科手術により取り除きます。

ストレスなど一過性の場合

犬は環境の変化や家族構成の変化などによりストレスを受ける傾向があります。具体的には、旅行に連れて行った、ペットホテルに預けた、引っ越しをした、家族が増えた、他の動物が増えた、周囲で大きな工事の音がしている、などが挙げられます。思い当たるものがあり、それが取り除ける(犬から遠ざけられる)場合、はなるべくストレスの原因を取り除いてあげましょう。

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